FUKUSHIMAいのちの最前線
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第2章福島医大関係者行動記録〈手記とメッセージ〉FUKUSHIMA いのちの最前線153 木ムクゲ槿が満開です。戸外では、蝉の声が炎天下や夜の闇を満たし、夏真っ只中という雰囲気です。出勤すると、構内の通路に蝉や空うつ蝉せみが散乱しています。日中、中庭を賑やかに鳴いていたのが、翌朝には骸むくろとなっているのをみるとき、一瞬、“命”、“一生”を考えてしまいます。若い時に読んだ「空蝉」という立原正秋の晩年の短編小説集の中で語られている「諦念」が、今も心に時々蘇ります。輝ける青葉は見るもなやましや命の奥に啼きしきる蝉(岩谷莫哀)梢よりあだに落ちけり蝉の殻(芭蕉) 食事をしながら早朝の庭に目を向けると、一いっ時ときの新緑が深い緑に、「鮮やかさ」から「深遠さ」へと変わっています。その濃こみどり緑の背景が、次に咲く花を待っています。 先日、時ホトトギス鳥や私には分からない鳥の鳴き声で起床しました。夕闇でも季節を我々に意識させるかのように鶯ウグイスと競演しています。ほとゝぎすなくやさつきのみじか夜(よ)も ひとりしぬればあかしかねつも(人ひと丸まろ「和漢朗詠集」より) 古今、誰もが同じ景色に巡り合っているのでしょう。印象的な情景には、それに相応しい歌が必ずあります。日本人の感性は昔も今も同じ、を実感します。春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえてすずしかりけり(道元) 人じん口こうに膾かい炙しゃした歌です。道元が作者とは知りませんでした。学生時代、道元の著作に挑戦しました。完全にお手上げでした。それ以来、遠い、少し煙たい存在でした。彼が優れた歌人でもあったことを初めて知りました(松本章男「道元の和歌」)。この歌の意は、“ときには立ち止まり、自然と同化し、自然と語り合う気持ちのゆとりを持つ”だそうです。ここまで読み込んでいなくてはならないのか…。 いい話を新聞でみつけました(朝日新聞 7月23日 地方版)。小学生の姉弟が峠道で朝晩災害現場と宿舎を往き来している警察や自衛隊の支援車両に、“おかえり”、“いつもありがとう”という手作りのメッセージボードを掲げて手を振りながら、感謝の意を表しているというのです。3か月の間、毎日です。久し振りに胸の奥に温かい火種をもらいました。隊員の方々もきっと元気と誇りをもらったことと思います。そして、この姉弟は、「愚直なる継続」の大切さ、「善意の有り難さ」を肌で感じ取っていることでしょう。この困難な時期を乗り越えて、優しくて、勁つよい大人になっていくことを確信します。 今週の花材は、執務室は寒色で、秘書室は暖色で夏を演出しています。今週の花vol.135 蝉せみ時し雨ぐれ2011年8月5日今週の花■オンシジュウム ラン科/原産:中南米/《名前の由来》ギリシャ語でコブを意味する“オンコス”が語源。花弁にコブのような隆起があることから/無数の蝶が舞い飛ぶような花姿。花弁に入る斑がオンシジュウムの特徴。■ブラックベリー バラ科/原産:北アメリカ/木苺の一種。4〜5月に開花し、7〜8月頃に収穫。品種により直立性やほふく性があり、庭木や垣根として楽しめる。実は黒色と赤紫色で、生食のほか、ジャムや果実酒などに利用。■ポニチャー ショウガ科/原産:タイ/先週秘書室で使用したクルクマの一種。ロウ細工のような花で1ヵ月近く観賞できる。使用したオレンジの他、ピンクやホワイトもある。■石化柳(セッカヤナギ)ヤナギ科/尾上柳(オノエヤナギ)の枝が石化したもの(枝の上部が帯状に扁平)。茎の一部が枯れこんで成長が止まり、他が成長するため曲がりくねる。曲がった石化部分の動きを生かして、生け花などに利用される。■ルリ玉アザミ(ベッチーズブルー)キク科/多年草/原産:地中海沿岸・西アジア/アザミに似た葉をつけ、茎の先端に小花の密集した球状花を咲かせる。ハリネズミのような花形と綺麗な青紫色が特徴。■ピンポン菊 キク科/多年草/原産:オランダ/ピンポン玉のようにまん丸に咲く。菊のイメージを変え、仏事以外での使用が多い。■アンスリュウム(みどり) サトイモ科/常緑多年草/南国原産の花で暑さに強く、花弁のような苞を観賞するので長く楽しめる。「みどり」は爽やかな黄緑色。■ドラセナ(コーディラインレッド)リュウゼツラン科/日本で流通する観葉植物の代表的なもの。「コーディラインレッド」は葉が赤色。

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