FUKUSHIMAいのちの最前線
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150山いくつ越えて行くらむ山いくつ彼方の村に 誰たれひと人と果てむ運さだめ命ぞ旅なれば何か愁しき —轟々と四あたり邊とよもし山角を汽車は曲りぬ田中克己「田中克己詩集」 このような自然と人間の営みが一体となった穏やかな情景が、一日も早く戻ってくることを願っています。 今、構内では無惨に枝を切り落とされた木蓮(vol.73、75)と歩道を挟んで辛夷が同時に花を咲かせています。(vol.73 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=99)(vol.75 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=101) 木蓮の花は、大振り、高雅で華やかさを持っています。その白さは艶つやのある白磁を思わせます。木蓮に白磁の如き日あるのみ竹下しづの女じょ 白磁の白とは典雅な宋でしょうか、あるいは花曇りのような李朝でしょうか。 一方、辛夷は花も小さく、構内の木は幹も木蓮のそれに比べると細く、横にも広がらず、木蓮に遠慮してしおらしくしているようにみえます。只、私は辛夷の飾らぬ穏やかさに惹かれます。この差は、カサブランカの豪華さとユリの清楚の対比を思わせます。どちらが良いかは、その時々の受け止める側の心象を反映してしまいます。「白い花」が好きな私は、時間を見つけては、木蓮と辛夷の間にしばらく立ち続けているのが大学での密かな楽しみの一つだったのですが…。 今週の花材は、執務室は黄色、橙色そして緑の組み合わせが、気品のある穏やかな立ち姿をみせています。秘書室は桜で、訪れる人を“春”で迎えてくれています。今週の花■LAユリ(ロイヤルトリニティ)ユリ科/球根植物/《名前の由来》Longifrorum Asiatic Hybrid。鉄砲ユリ(Longifrorum)とスカシユリ(Asiatic)の掛け合わせ/鉄砲ユリとスカシユリの良いところを持つ品種。中輪咲きでスカシユリよりも花持ちが良い。「ロイヤルトリ二ティ」は綺麗なオレンジ色。■オンシジュウム(ハニーエンジェル)ラン科/原産:中南米/別名「バタフライオーキッド」蝶が舞い飛んでいるような花姿。約400種が熱帯亜熱帯地域に分布する蘭。オンシジュウムは花弁に斑点が入るのが特徴で、他に茶、白、ピンクもある。「ハニーエンジェル」は独特の斑点が入らない綺麗な黄色の品種。■ハラン(旭ハラン)ユリ科/多年草/江戸時代から生け花の材料として利用。青々とした大きな葉で日持ちする。「旭ハラン」は葉の先端に白い斑が入る。他に縦縞の斑が入る「縞ハラン」、点々の斑が入る「星ハラン」もある。 今日(執筆日:5月2日)は、“夏も近づく八十八夜”です。立春から数えて八十八日にあたる日、霜がつかなくなり安定した気候になる目安のようです(飯倉晴武「日本人数のしきたり」)。四国八十八箇所という言い方もあることから、何か別な意味もあるのでしょうか…。 鉄路からの眺めに何かが欠けているようで、気になっていました。それは人の姿とその動きです。田畑や校庭に人がいないため、色彩の乏しさと共にそこから聞こえる(実際は聞こえる筈はないのですが)息遣いやざわめきがないから違和感を覚えるのです。一方、この時季、道傍では花ハナ水ミズ木キが今年も爽やかさを演出してくれています。民芸館周辺の花水木はいつも見事でした。 大震災と福島第一原子力発電所での事故発生から1か月以上経過しました。自然保護とか環境保全などという言葉は、人間からのみの視点であったことを思い知らされます。街のイルミネーションを素直に愛でることのできなかったのは、振り返ると暗示的でした。(vol.60 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=86)(vol.106 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=134)vol.124【番外編】東ひがし 風かぜ2011年5月6日理事長室からの花だより

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