FUKUSHIMAいのちの最前線
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134おいしいおにぎりを食べさせてあげたい」という思いで、約1か月間、一生懸命握っていたように思います。③避難所でのボランティア おにぎりづくりのボランティアを始めた次の日から、福島市でいちばん大きい避難所であるあづま総合運動公園のボランティアにも行きました。私が参加した時期には1,400人ほどの避難者がいました。体育館の中だけでなく、ロビーや通路にも毛布を敷き詰めて、家族で固まって過ごしていました。津波で家を失った人もいましたが、多くは3月12日の福島第一原子力発電所の爆発による放射能の影響で避難している人でした。高齢者や子どもたちも多く、硬い床に毛布を敷いただけのところにそのまま横になっているようなものなので、体への負担が心配でした。体育館や運動室の中ならば、風や寒さなどを凌ぐことができそうですが、ロビーにいた人は風が届いてしまうので肌寒く、健康にも衛生的にもあまりよくないと思いました。 私は主に衣類などの物資の仕分けと倉庫の整理、食事の配給を行いました。食事の配給は、私たちが握ったおにぎりとピーナッツ味やチョコ味などの菓子パンのみ。おにぎりは1人1個で、パンは1人3個という、栄養の偏った食事でした。それが朝昼晩の3食続いていたので、職員さんや配る私たちは、もう少しちゃんとした食事をあげられたらと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。避難者の方たちの食事を楽しみにする顔が、日を追うごとに、「またパンか」という表情に変わっていくのがよくわかりました。車を運転できる人はコンビニやスーパーにおかずを買いに行くこともできましたが、高齢者は「配給をもらわないと食べ物がないので仕方ない」と言っていました。カップ麺やインスタントカレーの支援物資が来ていましたが、避難者全員が平等に食べるには大量のお湯が必要になったり、カップ麺の残り汁の処理の問題など、考えなくてはならない問題が多かったので、すぐに配給には至れなかったようです。問題が起きてからでは対処が大変なので、うまくいくやり方を考えて行うことが大切だということを学びました。 地震発生から1か月経つと、佃煮や梅干しなどの食品も支援物資として送られてきたので、多少のおかずを配ることができました。さらに、いろいろな団体が温かい汁物やカレーの炊き出しを行ってくれるようになったので、被災者の方たちもおいしい食事を摂ることができ、表情も明るくなっていきました。職員さんや私たちも自然と明るい気持ちになれました。5月に入るとほぼ毎日のように炊き出しが行われ、配給が立派な食事となり、食事には困らなくなったように思いました。 また、衣服の支援物資が全国から送られてきており、ごみ袋や段ボールに詰められていたものを男女別、サイズ別、上下別などに細かく仕分けました。果てしない枚数のうえに、中にはリサイクルショップにも出せないような汚れた服やタンスから出してそのまま送ってきたようなものもあったので、1枚1枚チェックしながら仕分けしました。しかし、津波の被害にあった避難者の人にとっては、多少汚れていても大切な衣服なので、配布の時間になると行列ができ、自分の番が来ると取り合いのように持っていきました。4月に大手ファッション会社から新品の衣服が届き、避難者の方たちも喜んでいました。 ここの避難所でいちばん重要視していたことは、食事においても物資においても、「みんなに平等に配る」ということでした。衣服、特に肌着系は男女ともに不足がちで、1人1枚などと制限をかけなくてはなりませんでした。しかし、中には配給の列に2~3回並ぶ人もいて、その人のほしい気持ちもわかりますが、ぐっとこらえて注意するのがつらかったです。 そのほか、水や薬品、オムツ、お菓子など、本当にたくさんの物資が全国から集まり、「がんばれ」とメッセージが書いてあるものもありました。ハワイから送られてきた衣服もありました。日本中、世界中の人たちが被災地を応援してくれていることを実感できた仕事でした。④ボランティア活動を振り返って 今回ボランティアに参加して、こうしたほうがよいと思っても、それを実行するためには、いくつもの問題点を考えて解決案を出していく必要があることを学びました。ボランティア同士でやり方をめぐってもめたときもありましたが、いま思えば、皆がよりよい避難所にしようと必死だったのだと思います。とても貴重な経験ができました。 沿岸部から福島市に避難していた小学生たちは、避難所の近くの小学校に転入しました。全校生徒28人だった小学校は103人に増えたそうです。4月の始業式の日、ランドセルを背負って「行ってきます」と元気よく避難所から登校していった姿を見て、私はたくましさを感じました。子どもたちと触れ合っていると、あまりの無邪気な笑顔に私のほうが元気になれました。「笑顔は人を元気にする。つらいことがあっても笑顔を絶やしてはいけない」ということを学びました。このことはこれから一生心に刻ん福島県立医科大学看護学部:学生ボランティアを体験して

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