FUKUSHIMAいのちの最前線
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第2章福島医大関係者行動記録〈手記とメッセージ〉FUKUSHIMA いのちの最前線95福島県医師会報第73巻第8号(23.8)掲載医科大学医師会 器官制御外科学講座 福島 俊彦智拳印 智拳印をご存じでしょうか?大日如来が結んでいる印相のことですが、「忍者がどろんと姿を消すときに胸の前で組む手の形」と言った方が分かりやすいでしょうか。 2年前、京都での学会の際に、何気なく訪れた東寺の講堂に居る大日如来座像と対面して、私は暫く動けなくなってしまいました。特に仏教や仏像に興味があったわけではないのですが、あの慈愛に満ちた目力にやられてしまったようです。 大日如来は、宇宙の中心で、その光明で宇宙全体を遍く照らす仏様であると、後で知りました。キーワードは「慈愛」 先の東日本大震災に際しては、多くの方の慈愛に触れることができました。発災後、私は県庁内にある災害対策本部に派遣され、DMAT、医大混成チームで、避難区域にある病院に入院されていた患者さんの域外搬送ミッションのお手伝いをさせていただきました。 当該病院の先生やスタッフの方々の混乱、ご苦労は想像を絶するものがあります。そんな中、搬送患者のリストを一晩で作成してほしいという無茶なお願いにも、冷静沈着に対応してくださったK先生。電話でのお話からも、慈愛が満ちあふれていました。 自院の患者とともに域外の病院(といっても、30km圏内ですが)へ避難し、そこで診療を継続していたE先生。3月25日に、自衛隊員に帯同していただき、現地調査をした際に、E先生にお目にかかることができました。避難の経緯を淡々とお話して下さいましたが、責任感と言うよりは慈愛という言葉がぴったりでした。 ご自身も被災者でありながら、避難所で医療を展開されているI先生、S先生はじめ多くの先生方。S先生とはお電話でお話することができました。「福島君、僕さー着替えがなくてさー、まだジャージなんだよ。あははは」と、全くご苦労を出さずに、逆にこちらが励まされてしまいました。困難な状況でも、相手を思いやる気持ちがあふれ出てくるS先生にも、慈愛という言葉がぴったり。 今回の域外搬送ミッションでは、受け入れ病院の先生やスタッフの方にも、かなり無茶なお願いを聞き入れていただきました。病院機能が不完全な中、どんな状態の患者かもわからず、人数だけの交渉なのに、快諾してくださいました。その上、困ったら何でも相談しろと励ましのお言葉。やはりここにも慈愛。 先述した現地調査の際に、身元不明のご遺体を安置してあった高校体育館にも寄せていただきました。ご遺体を拝見し、津波のエネルギーの凄まじさに身がすくむ思いでした。丁度、近隣のお寺さんのご住職が、お経を上げておられました。お線香を上げさせていただき、ご住職の傍らにあった小さな仏像に目をやると、智拳印を結んだ大日如来でした。キーワードは「慈愛」。大学スタッフも、「何かできることを」と奮闘中です。

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