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平成24年度 学位記授与式(卒業式) 学長式辞  (平成25年3月21日)

  

ただ今学位記を授与された、大学院修了生、学部卒業生212名の諸君、おめでとうございます。

卒業式は「過去の提示」と、「未来の覚悟」を表明する場です。

人生には、自分ではどうにもならないことがあります。
東日本大震災に伴う原発事故では、そこに向き合った一人一人に死生観が突き付けられました。「如何に生きるか」です。死生観は、戦後、経済成長に伴う豊かさの中で喪(うしな)ったものの一つです。

我々は、あの時から、置かれた環境の現実をありのままに受け入れ、そしてそこに居る人々を頼り、遠くに居る人を信じて、己の限りを尽くして立ち向かってきました。その時、その場、真に“疾風に勁草を知る”(しっぷうにけいそうをしる)を感じました。
君達は、まさしく勁草です。君達とこの時期、共にその場に居たことを私は誇りに思います。騒然とした世情の中、「見えない恐怖」と斗(たたか)った経験は、将来必ず役に立つ筈です。君達は、この経験を人生の糧(かて)として歩んでいって下さい。

君達にとって、本学は掛け替えのない出会いの場となりました。
人生は出会いに尽きます。そして、その人生は、すぐそこに居る人々との関(かか)わりの中で終わってしまいます。人生は、面白いわけでも楽しくもありません。しかし、人生の意味は、側に居る人々との関わりの中で、喜びや共感を得て、明日を見出すことにあります。
今までの、そしてこれからの出会いを大切にして下さい。何故なら、“人生の扉は他人が開く”のですから。人間は独りでは生きてゆけないし、誰かを仲間と思わずには生きてゆけないのです。そして、人生の道々での出会いでは、他人を職業、地位、肩書きで判断しないことです。職業、所属、あるいは地位で評価される人間の哀しみに思い至る人間になって下さい。これらは所詮、一時的なものです。

人は、過去という軸と他人との関わりというもう一つの軸の交叉したところで生きています。その積み重ねの先にあるものが未来です。人間というものは、人生が配ってくれたカードでやっていくもので、配られたカードが悪いと愚痴をこぼしたりするものではありません。そんなことをすると、家族や友を悲しませるだけでなく、自らを卑(いや)しい人間にしてしまいます。

考えてみて下さい。人生こうしよう、ああしようと計画を立ててその通りになったことがあるでしょうか。ありません。大切なことは、その場その場でベストを尽くすことです。他人の評価はどうでも良いのです。大事なことは、自分がどう評価するかです。今日から、君達は、価値観を「何になったか」ではなく、「何をしたか」に置いて下さい。

君達に、人生の先達として一つだけ注意を促しておきます。
それは、看護や医学の中に身を置くとき、そのことだけに没頭できる時間は、今、君達が認識しているほど長くないことです。ある時から、足し算の人生から、直ぐに引き算の人生に変わってしまいます。今日から、私の忠告を心のどこかに留めておいて下さい。

私の医師としての長い経験から、君達に三つの言葉を贈ります。
一つは、自ら枠を作らないことです。
自分の環境や事情で自己規制する人が多いのが実体です。自分で自分の将来像を勝手に決めると、それ以上は自分の能力を発揮できません。枠はつくるものでなく、結果としてできるものなのです。

もう一つは、“悔しさ”、“無念”そして“挫折”を、生きていくバネにすることです。
劣等感こそが成長の鍵です。逆境は、努力できる原動力になります。努力できることも一つの才能です。悔しさ、無念、挫折を経験すると、他人の悔しさや無念さに思いが至ります。それが分かると、自分の言動は自(おの)ずと懼(おそ)れを持ったものになる筈です。

最後に、「愚直なる継続」です。
何でもよいですから、毎日継続できるものを自らが決めて取り組んでみてください。これを実行するには鉄のような意志が必要です。時には心に鎧を着せて働くことも求められます。「風を待っている軒下の風鈴」のような受け身の態度での研鑽は、自分の運命を他人の手に委ねるようなものです。愚直なる継続は、一般人ができる最大の武器であり、大成する王道です。

これから直ちに取りかかることになる修業、修業とは、矛盾に耐えることです。どんなに辛くても明確な目標を持っている限り耐えられます。看護・医学に携わる人間として、どうなりたいのか、世の人々がどういう有り様を我々に求めているのかを絶えず意識して下さい。その果てに、勁さと優しさを持った看護や医療のプロの境地があります。

君達は今日、本学を巣立って行きます。
君達が、本学を出て行くことはあっても、君達の心から本学が出て行くことはありません。自分の母校に、あるいは自分の生き方に誇りを持って、いつか母校の為に少しでも貢献できる人間に成長していって下さい。

最後に、未曾有の惨禍のなかで考えたこと、あるいは行為を、今後、生きていくうえでの座標軸にして、自分で得た何かを次の世代に伝えていってくれることを切望します。

 

 

平成二十五年 三月 二十一日
福島県立医科大学 学長  菊地 臣一


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