菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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217. 無駄話の薦め

我が国の文化は、基本的には、契約社会ではなく信頼関係の社会です。
それを組織という視点からみると、その典型は徳川幕府にあります。徳川幕府の制定した法律は驚く程少なく、その隙間は昔からの慣習などで埋められていたように感じます。
実際、規則は少なければ少ない程良いのです。何故なら、個人や組織の活動の自由度が増すからです。只、そのような社会が成立するには一人一人に自律が求められます。
今は、周囲との付き合いが以前と比べれば明らかに希薄になってきています。只、それに代わる契約社会、契約に書いていないことは何をやっても良いという社会にはなりきれていないだけに、何かあるとすぐ周囲との関係がぎくしゃくしてしまいます。

ぎくしゃくする典型は、「俺は聞いていない」 という台詞です。
これだけで、ある問題に対して討論する前に、聞いていないことが問題になって話の筋道が脇に逸(そ)れ、折角の仕事や計画も駄目になってしまうことも稀ではありません。

このような世情にあっては、我々は絶えず周囲とコミュニケーションのネットワークを確立しておく必要があります。
無駄話の薦めです。
これがあると、何かあれば誰かに聞くことができるし、知っている人に教えて貰えるし、或いは 「彼/彼女が知っておいた方が良いのではないか」 という周囲の気配りが働きます。
我が国の世間に対する感覚は、依然として欧米のそれとは異なります。そんな中で個人としても組織としても円滑に活動するには、無駄話が必要です。
無駄話の中から、相手の環境や立場、人生観などが容易に窺(うかが)えます。


(2011.10.06)

 

 

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