菊地臣一 コラム「学長からの手紙 〜医師としてのマナー〜

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190. 医療の中心軸は何かを常に考えよ

昨日、私が教授就任時に掲げた基本理念が済し崩しになっていることを知り、愕然としてしましました。私は、この教授就任時に是正すべき大きな柱の1つとして、患者中心の医療を掲げました。一般病院で長く勤務していた自分に執って、医療を提供する側の都合で患者さんが彼方此方歩き回されたり、医療機関の都合の日程に合わせて患者が来診することに驚きました。そこで、このような患者不在のシステム是正の一貫として、整形外科では装具治療に対する変革を打ち出しました。

具体的には、装具装着や装具修理が義肢や業者の都合に合わせて行っているのを患者さんの都合や状態に合わせて対応するようにしました。以前は、採寸をしその仮合わせは次の週でした。また、修理りも翌週の義肢や業者さんが来院する日程に予定されていました。考えてみれば、おかしなことで、装具は何らかの適応があるから作るのであり、作るのであれば、時間を置かずに装着出来るようにすべきです。また、不具合があれば直ぐに是正することが我々医療提供側の勤めです。しかし、事実は逆でした。

先日、関連病院に診察に行きました。そこで、大学病院に入院していた患者の診察をしました。装具の修正がしてあり、その修正に尚不具合があるということを患者が訴えました。何故直さないのかを医師に尋ねると、医師は、来週の義肢の来院日に直すという答でした。これを聞いて、自分が今まで目指してきた医療の理念の伝達はどうなっているのかを思わず我を忘れて叱責しました。このような小さなことの不満の積み重ねが医療トラブルに繋がるのです。

我々医療人は、極少数のどうにもならない信頼関係の確立に成功しない患者さんはいます。これは事実として認めざるを得ません。我々がいくら努力してもその努力が通じない患者さんはいるのです。我々医療提供者側にどうしても是正されない問題の人達がいるのと同様に患者さん側にもいるのです。しかし、それらの極少数の人達を除いては、医療提供者側は出来るだけ良い成績を出そうと願い、患者は出来るだけ元の元気な状態に復帰し、満足した気持ちで医療の実施を願っているのです。

しかし、往々にして治療成績をみると、患者の期待以下である場合もありますし、医師が期待した以上には治療成績が向上しないことがあります。患者に執っても満足出来ない治療成績というのは、厳然として存在します。しかし、満足はさせられなくても納得出来る医療は提供出来ます。それは、我々がその納得と不満との間のギャップを如何にして埋めるかです。その為の1つの手段として患者のニーズに応じた即時的な対応があります。是非、患者中心、或いは患者さんに応じた日程や治療プログラムの作成が望まれます。

 

 

 

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