菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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151.何をやって良いのか分からないよりは、何からやって良いか分からない方がよりまし

私自身も経験がありますが、より高いレベルの医師を目指して医師として技術・知識の習得に励んでいる時に、つまり研修医時代、最も困る事は、何をやって良いか分からない事です。覚える事があまりにも多すぎて、何から覚えて良いのか分からないというのが実情です。しかし、この状態は覚えるべき事が目標としてあるからまだ楽です。とは言っても、充分な研修体制が無い時、或いは研究者として研究テーマが見つからない時、これは一度でも経験した人は理解出来ますが、その苦痛は想像を絶するに余りあります。

以前、私の信頼しているスタッフがしみじみと私に語ってくれた事があります。自分がチームのトップに立った時に最も辛かった事は、研究を進めていく上で、何をやって良いのか分からない事であったとの事です。その為にストレス潰瘍になったそうです。それに比べて今は、何からやって良いか分からない。何からやって良いか分からないのも大変だが、やるべき事は目の前にあるので、この方がずっと楽だという事を述べてくれた事があります。

この様に、ものは考えようで、前にも述べましたが、「時間が有る、金が有る、テーマが有る、さあ、あなたの言う条件は満たしたから、我々が満足するだけの業績を上げてみなさい」と言われたら、これはなかなか辛いものがあります。また、思う様な実績が上げられない時、私も含めて人は、つい自分を釈明する気持ちに傾きがちです。しかし、やるべき事が有って、不満を言いながらもそれをやっている時が医師としては一番楽だし、楽しい事だと思います。現に、私自身最も診療業務が忙しい時に、自分自身の研究者としての業績が最も挙がりました。ですから、「何をやって良いか分からないよりは、何からやって良いか分からない方がまだましだ」という事を認識して、大変でも教育・診療・研究に励んでみて下さい。

 

 

 

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