菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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87.医師は誰でも何時かは組織のトップになる

医師という職業に就いた人間は、将来どんな形であれ何時かは組織のトップに立ちます。開業すれば医院のトップ、勤務医になれば整形外科のトップ、あるいは病院のトップ、大学に残れば講座のトップといった具合です。また医師ゆえに組織のトップに就いた場合、その組織の中で下に従う人達は必ずしも医師ではないということが一つの特徴です。

医療という業務は、その中に多くの職種を含んでいます。病院を例にとっても、医師、X線技師、臨床検査技師、看護技師、事務職、栄養士、ガードマンと様々です。当然価値観も様々です。只一つの共通点は「医療に携わっている」ということだけです。そういう様々な職種を束ねていかなければならない医師が持つ難しさが、管理です。医師は何時までも組織の中の一員でいることは出来ません。しかも組織のトップになっていない時点でも医師を中心に医療が回っていることは事実です。前にも述べたように、医師が居なければ医療は動きません。しかし医師だけでは医療は動きません。このような立場に置かれる医師は、常に組織というものを意識する必要があります。

一つの例を挙げましょう。最近、医局行事とされている地方会の出席に関し、学会の親睦行事に人が揃わないという事態が起きました。整形外科学講座のトップとして、この組織を管理している私にとって、良かれと思って作った規則があります。それは地方会や総会への全員出席体制です。それらの学会ではあらゆる義務を免除して、学会に参加できるようにしてあります。しかし、この事態は、この規則を組織の構成員によって悪用されているということを意味します。つまり、自分がその期間フリーであることをいいことに、自分の都合で仕事や遊びにそのフリーの時間を当てていたわけです。

組織の中の一構成員の人間としてそのようなことは時々あることでしょう。しかも、ある場合には必要悪として見逃されて然るべきものかもしれません。しかし、何時かは組織のトップになる医師のとる態度としては許されることではありません。自分が組織のトップに立った時に、組織の構成員がこのような行動をとった場合にはどうでしょうか。組織というものが維持も出来ないし、その組織を上手く運営することも出来ません。何時かはその組織は衰えていきます。

組織に属する以上は、組織というものを上手く利用する権利を勿論有します。しかし、それと同じくらい組織の為に働く義務も生じます。組織のトップにある人間からこのような事態を見ると、自分の都合の良い時には組織を利用し、自分の都合の悪い時には個人を優先して権利を主張していると見えます。

医師は何時かは組織のトップになるのです。常日頃から組織のトップとしての視点から組織や組織の中に属する人間の行動、或いは自らの行動を再評価する必要があるのではないでしょうか。

 

 

 

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