菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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79.最初の論文が一生を決める

医師にとって最初に書いた論文は一生忘れられません。そればかりではありません。その論文の内容によっては、それが自分の一生の専門分野になることも希ではありません。更にその論文を書く事によって得られた論文の書き方、物事の考え方、論理の進め方といった事により、その論文一つでその人のその後の研究手法が決定されてしまうと言っても過言ではありません。最初の論文は大多数の人は症例報告でしょう。しかしその症例報告を通じて自分の一生が決まってしまうという事を肝に命じて、悔いのない努力をするべきだと思います。

私自身の最初の論文は「骨内ガングリオン」でした。日本で第4例目であった時代ですので商業雑誌に載せたいと思ったのですが、上司にそんな必要は無いと言われました。今考えてみれば自分の価値基準に自身を持って自分の意思を貫くべきだったと思います。また、その論文は投稿許可が得られるまで、7回程書き直しました。その事は私に色々な事を教えてくれました。その当時は、只辛い、「なぜこんなに何回も書き直しさせられるのだろう」「一回の書き直しで全部直してくれればいいのではないか」とすら思いました。

でも、いま他人の原稿を直す様になって、論文は彫刻で彫像が少しずつ出来上がって行く様に、形を整えて行くものだという事が良く分かりますし、何故そんな風に直されたかが良く分かります。ですから一所懸命見てくれてる場合には、歯を食いしばってでも付いて行って、その最初の論文に自分の持てる力を全て注ぎ込むべきだと思います。それがその人の一生を決めてしまうのではないでしょうか。

 

 

 

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