菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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44.若い医師は何を知っているのかよりも、何が判らないのかを知る事に努力せよ

一般に医師の修行はどれだけ知識や技術を身に付けるかに尽きる様に思われています。確かにそういう面は否定出来ません。しかし、日常臨床上一番大事な事はその事ではなくて、何が知らないのか或いは今の自分にとって何が足りないのかを知る事の方がもっと大事なのです。以前にも「自分の座標軸を常に意識せよ」という事を述べましたが、その事にも相通 じる事です。

例を挙げて説明しましょう。SGTの勉強やレジデントの半年や一年の研修で整形外科のどれ程のものが身に付くでしょうか。正直言って殆ど身に付かない、五里霧中といった所が実情だと思います。しかし、その研修が全く無駄かというとそんな事はありません。その事を通じて必ず教えられる事、或いは否応無く突き付けられる現実があります。それは、いかに自分が整形外科を知っていないかという事です。

でも、研修の目的は突き詰めればそういう事なのではないでしょうか。何が知らないかを判る事が自分がこれから身に付けていく知識や技術の道標になるからです。何が判らないのかを判るからこそ判らない事を勉強出来るのです。何が判らないのかを知らないと何を勉強して良いか判らないのです。この言葉は示唆的な事を多く含んでいると思いますし、私自身研修の目的は何か、若い時は何を意識する事が一番大事かを考える時に、立ち至った結論がこの事実なのです。

若い人は、私自身経験ありますが、時には覚える事が多すぎて頭が破裂しそうになります。それで消化不良を起こし、ノイローゼになる事さえあります。全ては覚える事だらけだからです。しかし、その時期をじっと歯を食いしばって頑張っていると、また凪の様な状態の時期がやってきます。その時に判らない事が一杯ある中で、少しずつ何が具体的に判らないのかが見えてきます。その時こそ一段階自分の実力が上がったと認識してよいのです。どうぞ常にどれだけ覚えたか、どれだけ知っているかではなくて、どれだけ判らないのかを知る事に努めて下さい。

 

 

 

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