菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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15.人にものを頼む時には、直接に(face to faceで)

仕事の上で忙しい時に、便利さのあまりつい電話で人にものを頼む時があります。しかし、これは非常に危険な事です。最近での事例をみてみます。あるDr.が、電話でMRIの依頼をしました。研究の為です。しかし、相手は良い返事をしませんでした。後で相手のDr.に事情を聞いてみますと、きちんとした仁義を切ってくれなかったという事が断った理由の様です。私がお願いしたら、そういう様な話でした。この様に電話では顔が見えない為についつい感情をむき出しにします。

私がカナダに勤務中にこの主題に関する面白い経験をしました。私は語学を全く学ばずにカナダに行ってしまったものですから、全く英語が判りませんでした。いわんや電話は全く聞き取れません。しかし仕事はしなくてはなりません。臨時で処置や手術をする場合は先ず電話で頼むわけです。私にはそれが出来ませんでした。

そこで私はどうしたかというと、全て伝票を持ちface to faceで話に行きました。そうすれば相手は私が英語が出来ないというのはよく判ります。図書館、放射線科、手術場すべてそうしました。ところが相手は私が英語が出来ない為にわざわざ直接出向いているとは受け取りませんでした。彼等は私が誠意をもってなんとか自分の意思を聞き届けて欲しい為に直接来ているのだと受け取りました。その結果、「あいつは誠意がある」という評価になったわけです。帰国する際に、私の為にに最初に送別会を開いてくれたのは図書館であり、放射線科であり、手術場のスタッフでした。そこで私は人にものを頼む時には直接に頼む事が良いのだという事を教わりました。

考えてみて下さい。医療上の仕事を依頼する時には、いずれも止むに止まれない理由があるからです。それは、頼む方も頼まれる方も判っています。ですから、直接頼まれた場合にはNOとは言えません。又、その熱意が表情からも言葉からも伝わります。しかし、電話ではそうはいきません。ですから、人にNOと言われたくなかったら必ず何事でも直接出向いていってものを頼む事です。それが旨くやるコツです。

 

 

 

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