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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.08.05

vol.376  − 慰 (なぐさめる ) −

8月、葉月、二十四節気では大暑(たいしょ)です。
歳時記では晩夏で、夏の終わりです。路上で、蝉(セミ)が骸(むくろ)となって仰向けに倒れています。

         ・・・・・
         夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし
         ・・・・・
                               (徒然草第7段)
夏の蝉に春と秋を知らずに死んでしまうことが、儚(はかな)さの象徴として述べられています。

         八月の石にすがりて
         さち多き蝶ぞ、いま、息たゆる。
         わが運命(さだめ)を知りしのち、
         たれかよくこの烈(はげ)しき
         夏の陽光のなかに生きむ。
                            伊東静雄
夏の炎天は、そこに激しさがある分、死の気配が漂います。

路上に目をやれば、片蔭(かたかげ)を選んで、人々が立ち止まり信号を待っています。それを面白がっている己もビルの陰で信号待ちをしています。

8月は鎮魂と祈りの月です。
この時季、蝉時雨(せみしぐれ)のなか日本人の無常感が色濃く辺(あた)りに漂っています。

“永遠の時間の中で、人間は必然と出会い、別れねばならぬ”という小津安二郎の無常観は心に染みます(田中真澄)。
このような無常感は、“諸行無常の響きあり”(平家物語)の昔から現在まで、我々の心に連綿と受け継がれています。
奥の細道の冒頭、“すべては過ぎ去っていく、この世は幻である”という詠嘆も軌を一(きをいつ)にしています。

振り返ってみれば、やらなければならないことを愚直にやっているうちに、年老いてしまったというのが実感です。
儚いからこそ、一つの出会いを大切にしなければなりません。

蒸し暑いこの時季だからこそ、様々な情景を心に描いて身体(からだ)の裡(うち)へ涼風を吹き込みます。
それは、記憶の奥に仕舞われている、心に染みる音や風景です。
青春の旅、仕事先での出会い、あるいは故郷(ふるさと)への憧憬(しょうけい)などとともにあります。

国府津(こうづ)の浜辺で聞いた、潮騒、
         (vol.20 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=37
旅愁を感じた三陸海岸の崖下の集落から立ち上ってきた盆踊りの太鼓の音、
         (vol.44 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=69
         (vol.329 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=368
300米以上の落差を一気に流れ落ちる立山連峰の称名滝(しょうみょうだき)の姿と轟(とどろ)く音など、風景と音が一体となって甦(よみがえ)ってきます。

ブナの原生林の木立の中を流れている奥入瀬の渓流とそこから聞こえるせせらぎ、
太平洋が眼前に展開している室戸岬、磯に押し寄せる荒波の音が、空海が修業したという洞(ほら)に届いて、壁に反響しています。バックグラウンドミュージックの流れる中で一幅の絵を鑑賞する趣(おもむき)です。
轟く音と言えば、庄内の渚からの深夜に聞いた波の音も忘れ難い経験です。
         (vol.74 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=100

思い出は、心に風を吹かせ、身体も軽やかになります。

我が国を代表する作家である川端康成、彼の“美をみつめる眼”に焦点を当てた企画展が開催されました。
会場は、我が国の近代化への歩みを象徴する建物の一角です。以前より遙かに、建物それ自体を楽しめます。

彼の苛烈(かれつ)な生い立ち抜きに、彼の射抜くような美への眼差しは語れません。
個人で国宝をこれだけ所有していることは驚きです。同時代を代表する芸術家達との交流も圧巻です。

池大雅と与謝蕪村(国宝)、古賀春江、東山魁夷、ベル・串田らの作品、明恵上人の筆跡、太古の埴輪やガンダーラ風の仏頭は、彼が恋い焦がれた“安らぎの世界”だったのでは…。
有名な浦上玉堂の作品(国宝)は、富岡鐵斎のそれよりも厳しさが前面に立ち、彼の心の奥底に潜んでいたかも知れない悪魔的な情念を反映しているように思えてなりません。

彼の両極端の心情を、美でバランスを取っていたのでしょう。

今週の花材は、白と黄色が深緑の中に爽やかさを際立たせています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■リンドウ〔スカイブルーしなの早生〕   リンドウ科/
多年草/《名前の由来》根が薬になり、竜の胆のように
苦いことから「竜胆」(りんどう) /日本の秋を代表する
花で、世界に約400種。
■グラジオラス〔パープルシャドー〕   アヤメ科/球根
植物/ 1000超の園芸品種がありパステルからビビッ
ド、複色等花色がとても豊富。1m程の草丈で、漏斗状
の花が花茎いっぱいに次々と開花する。
■OHユリ〔コトパクシ〕   ユリ科/球根植物/大輪
咲で優雅な花姿と芳香が特徴。 ユリの中で一番知名
度の高い「カサブランカ」も同種。
■ハイドランジア〔プレミアムホワイト〕    ユキノシタ
科/落葉低木/ヨーロッパに渡り品種改良された西洋
アジサイ。 日本原産の紫陽花に比べ、花が大きく華や
かな印象。
■ユーカリ   フトモモ科/常緑高木/オーストラリア
の森の3/4がユーカリと言われ、約600種が分布。
コアラの食べる木として有名。 乾燥に強く土壌を選ば
ず生育することから、砂漠の緑化などにも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3761.jpg

【秘書室】
■アナナス〔ピンクパイン〕   パイナップル科/観賞用の
ミニパイン。水に浸けなくても1ヵ月程度鑑賞できる。
■ヒマワリ〔レモネード〕  キク科/一年草/夏の代表花。
品種が豊富で、黄色オレンジ系を中心に、クリームや茶、エ
ンジ等もある。「レモネード」は鮮やかなレモン色の八重咲。
■セダム   ベンケイソウ科/600種以上ある多肉植物
の一種。肉厚な葉を持ち、耐寒性耐暑性があり、乾燥にも
強い。切花で流通する品種も丈夫で長く楽しめる。
■ポリシャス  ウコギ科/常緑低高木/アジア、アフリカ、
オーストラリア等の熱帯に約100種が自生。品種により葉
形や葉色が異なる。 刈込に強く、熱帯地域では垣根に利
用される。
■ブルースター〔ホワイトスター〕   ガガイモ科/ベルベ
ットのような独特の質感の花弁を持ち、葉は産毛に覆われ
る。色違いの「ピンクスター」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3762.jpg

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