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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.07.15

vol.373  − 覚 (おぼえる) −

夜来(やらい)の雨の後、河堤(かわづつみ)では蟻(アリ)が動き廻っています。
石ころだらけの小路は足裏を刺激し、五感を磨(と)ぎ澄ましてくれます。
道端のヒメジョオン、シロツメクサの白、オオイヌノフグリの青紫、河岸の合歓(ネム)の花、薄桃色が鮮やかです。川の堰(せき)から轟音(ごうおん)、用水路の段差からせせらぎが耳に届きます。

果樹畑のリンゴが赤く実っています。
ネギ畑の白い緑の脇に向日葵(ヒマワリ)の黄色、軒先には、アガパンサスの薄い青紫が目に入ってきます。
公園の垣根は、花の終わった卯木(ウツギ)と白い花を残している梔子(クチナシ)です。

田圃(たんぼ)の苗は青々と伸び、水はみえません。
川辺の木々の足元は、藪(やぶ)です。そこから風に乗って草熱れ(くさいきれ)が顔に届いてきます。風の向きが変わると、田圃や果樹園からの乾いた風が肌をなでます。

庭先には羽黒蜻蛉(ハグロトンボ)、土手には白や黄色の蝶、空には郭公(カッコウ)、鶯(ウグイス)の鳴き声です。
天を見上げれば蒼(あお)、雲の形は早や夏です。何もかもが眩(まぶ)しいくらい輝いています。

書籍や資料で溢れ出そうになった書庫を整理していると、小さな木製の写真立てが出てきました。
過ぎ去ってしまった日々が甦(よみがえ)ってきます。

中学の卒業式の日、友人と撮った写真です。
         (vol.272 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=309
そこには、友情と未来を信じ切っている二人が写っています。その時は、どんな人生が待っているかを知らない二人です。

友は、若くして逝(い)ってしまいました。
只、どんなに短い人生であっても、様々な後悔があった一生であったとしても、生きた意味はあります。

彼も、他人に語っても伝わらない何かを抱(かか)えて生きていたに違いありません。
人間(ヒト)は、誰にでも、他の誰かに語ったとしても、分かってもらえない苦労があるものです。人間の心の襞(ひだ)を言葉や文字で描き切れるものではないからです。

人生に良いも悪いもありません。
他者を優しく見守ることができれば、それだけで生きてきた価値はあるのです。

私達の日々の暮らしや営みは、平凡です。平凡な日々こそが、一人ひとりにとって、掛け替えの無いものです。1年1年と過ぎてゆく時、失って初めて気付く“平凡”の大切さです。

         世の中は夢かうつつか
           うつつとも夢とも知らず
             ありてなければ
                         「古今和歌集」 よみ人知らず
この世は、夢か現実か、自分には分からない。確かにあるようでもあり、ない様(よう)でもある。

         人間(じんかん)五十年
           下天(げてん)の内をくらぶれば
             夢幻(ゆめまぼろし)のごとくなり
         一度(ひとたび)生(しょう)を受け
           滅せぬもののあるべきか
                          「敦盛」(幸若舞(こうわかまい)演目)
悠久の時の流れと比べれば、人間の一生は、一瞬で、夢や幻です。生あるものはすべて滅びます。

古典を読み返してみると、心に染みます。
日本人が古来から育(はぐく)んできた無常感、儚(はかな)さが、詠(うた)われています。

1枚の古い写真は、人間の一生、人生の意味など色々なことを、人生の黄昏時(たそがれどき)に入った己の心に、無言の裡(うち)に、語り掛けてきます。

「穎川(えがわ)コレクション」、古来、人々を惹きつけて止(や)まない“美しさ”を学ぼうと、足を運びました。
有名な「肩衝茶入 銘 勢高」(かたつきちゃいれ めい せいたか)、何故、これ程、人々を魅了して止まないのか、未(ま)だ分かりません。

分からないと言えば、今の日本の茶道人口の男女比です。
圧倒的に女性が多いのではないかと思います。しかし、茶道の家元、茶人、作家の多くは男性です。これは、時代とともに変わってきたのか、女性に就(つ)いて、記録として残っていないだけなのでしょうか。
「男性だけの文化ではない」という指摘もあります(依田徹)。

今週の花材は、夏の色、黄色の世界です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■フェンネル   セリ科/多年草/糸のように細い葉を持ち、花
期は初夏から夏。長い花茎に傘を広げたような小さい黄色い花が
咲く。茎葉や種は芳香があり、ハーブやスパイスとして利用。
■ヒマワリ〔東北八重〕   キク科/一年草/《名前の由来》太陽
を追うように花の向きが回ることから。実際は花首の柔らかい若い
時期のみ、花が咲く頃には動かない/夏の代表花で、黄色系を中
心にエンジやブラウン系など品種が豊富。 「東北八重」 は鮮やか
な山吹色の八重咲。
■LAユリ〔エルディーボ〕    ユリ科/球根植物/鉄砲ユリとス
カシユリの掛け合わせ。両種の良いところを持ち合わせた中輪咲
のユリ。「エルディーボ」は濃い黄色。
■ピンクッション〔タンゴ〕    ヤマモガシ科/常緑低木/針山に
待ち針を刺したような独特な花姿。待ち針のように見える一つひと
つが雄しべ。
■キイチゴ〔ベビーハンズ〕   バラ科/半落葉低木/切れ込み
が深くヤツデに似た葉を持つ。「ベビーハンズ」は名前の通り、赤
ちゃんの手ほどの大きさ。葉色も従来のキイチゴより薄く黄緑色で
涼しげ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3731.jpg

【秘書室】
■カラー〔アギラ〕  サトイモ科/球根植物/《名前の由来》メガホン状
の苞がワイシャツの襟に似ていることから/ 花のように見える部分は
苞で、その中に棒状の花序を持つ。スタイリッシュな花形で人気の花。
■サンダーソニア   ユリ科/球根植物/細い茎にベル型の小さな花
が連なって咲く。 花色はオレンジでランプを灯したような可愛らしい花
姿。 原産地ではクリスマス頃に咲くことから「クリスマスベル」の別名を
持つ。
■アンスリュウム〔みどり〕  サトイモ科/常緑多年草/ロウ細工のよ
うな光沢があり、造花と見間違うような花。花弁のように見える部分は
苞で、棒状の部分が花。主に苞を鑑賞するため、非常に長く楽しめる。
■ギボウシ   ユリ科/多年草/斑入りやブルー系、ライム系などの
葉色がとても綺麗で観賞価値の高い葉。初夏から秋にかけて花を咲か
せる。花の寿命は短く1日でしぼむため、英名は「デイリリー」。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3732.jpg

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