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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.06.03

vol.367  − 造 (つくる) −

水無月(みなづき)、水の月です。
天地は、早や、その季節が近いことを告げています。大気の透明度が増し、葉の隙間を通って大地に届いている日差しが、光の粒となって、黒い土の上で輝いています。

夜更け(よふけ)、時鳥(ホトトギス)が鳴き、道端には金鳳花(キンポウゲ)、黄色が鮮やかです。紫陽花(アジサイ)も咲き出しました。

6月は、衣更(ころもがえ)の月でもあります。最近、洋服は早めに夏服に着替えています。只、和服に関しては、頑(かたくな)に6月を守っています。

         亡き人に肩叩かれぬ衣がへ
                          久保田万太郎

毎日、帰宅後、己が袖を通している着物の多くは、亡き父や母からの御下がりです。仕立て直して着ています。袷(あわせ)を単衣(ひとえ)に変えた時、縫い糸の解(ほつ)れや綻(ほころ)びを時に目にします。そんな時、その着物に纏(まつ)わる秘話や記憶が甦(よみがえ)ります。

道や庭に散り敷かれたえごの花、涼やかで、しおらしい花です。雨や闇の下、山法師(ヤマボウシ)とともに映(は)える花の一つです。上田三四二(うえだ・みよじ)の随筆にエゴノキに纏(まつ)わる、闘病に際しての切々たる文章が人間(ヒト)の心を打ちます。

         咲きしよりいちはやく散るえごの花の
         小花はつもる黒き土のうへ
                               上田三四二

えごの花の散る様(さま)は、桜よりも壮絶です。散るというよりは落下するという有り様です。

シンガポール滞在中、摩天楼が作り出す景色をみながら建築のことに就(つ)いて考えていました。

高層ビルは、鉄骨鉄筋コンクリート、鉄骨構造、コンクリート充填鋼管(じゅうてんこうかん)構造、或いはそれらの組み合わせで造られています。
建築技術の発展は素晴らしく、世界各地で超高層ビルが建てられるようになりました。地震の多発する我が国でも、高層ビルは珍しくなくなりました。

一方、我が国の建築は、木造が、今尚、脈々(みゃくみゃく)と続いています。彼我の違いに思いが及びます。

建築は、木材を用いる木造建築と石や煉瓦(レンガ)を用いる組積造(そせきぞう)建築に分けられます。
以下、ここに記す多くは藤井恵介、玉井哲雄の著(あら)わした本に依ります。

江戸時代以前の我が国には組積造建築は殆(ほと)んどみられません。只、「歴史的に、日本の建築は木造」と言われる程単純ではありません。
“和”の建築の源は、中国北部です。そこでは組積造建築が普通にみられます。

「欧州は昔から石や煉瓦が主体」という知識も、必ずしも正しくありません。ギリシャ神殿の原型は木造であることが分かっています。
また、歴史上有名なロンドン大火(1666)、この火災以前のロンドンの町並は木造です。石造建築の町並は、17世紀以降から出現しています。

では、何故、我が国では木造建築が石造にならずに、今に至っているのでしょうか。石材の産出が我が国に少ないのでしょうか。
城を作る際に石の再利用が多かったこと、西日本に石垣の城が多かったことは記しました。
         (vol.215 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=252
         (vol.317 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=356
いずれにせよ、この事実は、“日本人とは何か”を考えるうえでの大きな手掛かりです。

高校生の時、自由民権運動の際に発生した弾正ヶ原事件(だんじょうがはらじけん・1882(明治15年)福島県喜多方市)を、歴史の先生と一緒に、現場に取材に出掛けたことがあります。

その時、大きな古民家を訪れました。
天井が高く、太い梁(はり)は、囲炉裏の火で燻(いぶ)されて、煤(すす)で黒く光っていました。薄暗い部屋の鴨居の上に、事件の当事者を含めた先祖達の写真が並べてありました。この時、初めて“和の建築”を意識しました。

今週の花材は、戸外の生命感溢れる自然とは対照的に、落ち着いた色と佇(たたず)まいです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■スモークツリー   ウルシ科/落葉高木/
《名前の由来》煙がモクモクしているような花姿
から / 花自体はあまり目立たず、花後の姿を
鑑賞。 ふわふわした部分は花が散った後に花
柄が伸びたもの。
■ラークスパー〔カンヌライラック〕   キンポウ
ゲ科/ 一年草 /《名前の由来》花の後ろに突
き出た突起が、 ヒバリの蹴爪(けづめ)に似て
いることから/別名「千鳥草」(チドリソウ)、「飛
燕草」 (ヒエンソウ)。 真っ直ぐに立ち上がった
茎に穂状に花を咲かせる。 花色は白・ ピンク・
青・紫などで一重咲き・八重咲きもある。
■トルコギキョウ〔エグゼラベンダー〕   リン
ドウ科/多年草/アメリカ原産で、当初は紫色
の一重咲のみ。現在出回っている品種の大半
が日本産。「エグゼラベンダー」は大輪八重の
フリンジ咲き。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3671.jpg

【秘書室】
■カーネーション〔ノビオピンク〕   ナデシコ科/多年草/江戸時代
にオランダから渡来。母の日の花として古くから親しまれる。「ノビオピ
ンク」はピンクに白の覆輪でギザギザの花弁。
■アンスリュウム〔みどり〕   サトイモ科/常緑多年草/造花と見間
違うような光沢のある独特の花姿。花弁のような部分は苞で、棒状の
部分が花。主に苞を鑑賞するため、非常に長く楽しめる。
■クルクマ〔ピンクパール〕   ショウガ科/球根植物/幾重にも重な
り花弁のように見える部分は苞で、その中に花が咲く。花自体は目立
たず、主に苞を鑑賞する。「ピンクパール」は矮性種で花(苞)が小さく
可愛らしい品種。
■ナナカマド   バラ科/落葉高木/花期は初夏で1cm程の小さな
花が集まって房状に開花。花後は5mmほどの実をつけ、秋に熟すと
真っ赤に色づく。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3672.jpg

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