研究班の紹介

研究の背景と目的

心理社会的ストレスはうつなどの精神的疾患だけでなく、循環器疾患等の生活習慣病の発症・死亡にも深く関わることが欧米を中心に報告されてきた。しかしながら、うつ症状やストレス等のネガティブな心理的因子に対する介入については未だ確立された方法はない。こうした背景の中、笑い、生きがいなどのポジティブな感情に対する心理的介入が注目されつつある。これまで、生活を楽しむポジティブ志向が脳卒中、虚血性心疾患の発症・死亡リスクを軽減させること(Circulation 2009)、笑いが糖尿病の指標である血糖値を低下させること(Diabetes Care, 2012)などが報告されており、笑いや社会的支援を増やす介入は、参加意欲を高め、介入効果が大きい可能性がある。
そこで本研究は、笑い等のポジティブな心理的因介入の生活習慣病の発症・重症化予防への影響を検討することを目的とした。具体的には横断・前向き研究によって、笑い、楽観性等のポジティブな心理的因子と糖尿病を始めとする循環器疾患危険因子との関連を検討する。また、笑い、生きがい、社会的支援を増やす長期的な介入を普段メンタルヘルスケアが受けにくい被扶養者や退職者を含む地域住民並びに外来患者に行い、自律神経系機能に加えて、体重・腹囲、糖・脂質代謝指標、血圧値等をアウトカムとして効果を検証する。

平成26年度 研究組織

研究代表者

大平 哲也
福島県立医科大学医学部 疫学講座 教授

研究分担者

磯 博康
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 教授
下村 伊一郎
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌代謝内科 教授
浅原 哲子
国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター糖尿病研究部 臨床代謝栄養研究室長
谷川 武
順天堂大学医学部 公衆衛生学講座 教授
野田 愛
順天堂大学医学部 公衆衛生学講座 准教授
松村 雅史
大阪電気通信大学大学院 医療福祉工学研究科 教授
成木 弘子
国立保健医療科学院 統括研究官
白井 こころ
琉球大学法文学部 准教授
江口 依里
岡山大学大学院医歯薬総合 研究科・公衆衛生分野 助教
↑ページのトップへ

研究内容

※ 見出しをクリックすると詳細が表示されます

平成26年度 研究要旨 +

 近年、笑い等のポジティブな心理的因子の生活習慣病予防への影響が注目されている。そこで本研究では、笑い等のポジティブな心理介入の糖尿病等の循環器危険因子の発症・重症化予防への影響を検討することを目的とした。最初に、日常行動記録と音声による評価の同時計測を行い、行動記録にある笑いの回答と笑い測定結果が一致することを確認し、笑い測定の質問調査の妥当性を確認した。次に、秋田、大阪、東京、沖縄等の地域住民、及び肥満外来通院者において笑いの頻度を測定するとともに、笑いの頻度と生活習慣、糖尿病との関連との関連を検討した。さらに、糖尿病外来患者を含む地域住民において日常生活における笑いの頻度を増やすためのプログラムに参加してもらい、笑いのプログラムの糖尿病・高血圧のコントロールに及ぼす影響を検討した。その結果、笑いの頻度と糖尿病との関連については、秋田、大阪、沖縄等の地域住民においていずれも、日常生活において笑いの頻度が少ない者ほど糖尿病の有病率が高かった。また、笑いの頻度には野菜、魚介類、大豆製品を食べる、睡眠で休養が取れている、1 日1 時間以上の身体活動を実施している等の生活習慣が関連していること、笑う頻度が多い女性では、ストレス関連ホルモンである尿中コルチゾール値が継時的に低下傾向がみられることが明らかになった。笑いプログラムによる介入の結果、介入群は通常治療群(対照群)に比べて、糖尿病のコントロールの指標であるHbA1c の改善効果がより強かった。また、収縮期・拡張期血圧値も介入群においては低下する傾向がみられた。さらに、外来患者の縦断的解析でも、笑いの頻度が多い人の方が糖尿病のコントロールがよくなる傾向がみられた。以上より、肥満・糖尿病がある者では日常生活における笑いの頻度が少なく、介入によって笑いを増やすことにより、肥満・糖尿病が改善する可能性が明らかになった。

平成25年度 研究要旨 +

 近年、笑い等のポジティブな心理的因子の生活習慣病予防への影響が注目されている。そこで本研究では、笑い等のポジティブな心理介入の糖尿病等の循環器危険因子の発症・重症化予防への影響を検討することを目的とした。最初に、日常生活における笑いの頻度の質問票及び笑いの測定機器の信頼性、妥当性を検討した。次に、秋田、大阪、東京、沖縄等の地域住民、及び肥満外来通院者において笑いの頻度を測定するとともに、笑いの頻度と糖尿病との関連、楽観性と健診受診率等との関連を検討した。さらに、糖尿病外来患者を含む地域住民において日常生活における笑いの頻度を増やすためのプログラムに参加してもらい、笑いのプログラムの体重、糖尿病のコントロールに及ぼす影響を検討した。その結果、日常生活における笑いの頻度は季節変動がほとんどなく、どの地域においても40~55%程度が毎日声を出して笑っており、地域差も大きくなかった。しかしながら、肥満・糖尿病外来通院者では34%と他の集団より笑いの頻度が少なかった。また、糖尿病との関連を検討した結果、日常生活において笑いの頻度が少ない者ほど糖尿病の有病率が高かった。また、楽観的な楽観性志向が強い者で、健診受診行動が高い結果が得られた。笑いプログラムによる介入の結果、介入群全体においては、平均 0.75 kg の体重の減少、笑う時間の増加や声を出して笑う頻度の増加傾向、安静時心拍数の低下、HbA1c 値の低下傾向、うつ症状の改善、睡眠時間の増加等が有意に認められた。以上より、肥満・糖尿病がある者では日常生活における笑いの頻度が少なく、介入によって笑いを増やすことにより、肥満・糖尿病が改善する可能性が明らかになった。

↑ページのトップへ

問い合わせ

笑い等のポジティブな心理介入が生活習慣病発症・重症化予防に及ぼす影響についての疫学研究お問い合わせ先

福島県立医科大学医学部疫学講座

TEL
024-547-1343(内線2270)
E-Mail
epi@fmu.ac.jp
↑ページのトップへ
トップへ戻る