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特定の嗅球介在ニューロンはにおいの検出感度と識別という嗅覚行動に必須である
坪井昭夫(公募班員)
奈良県立医科大学

A subtype of olfactory bulb interneurons is required for odor detection and discrimination behaviors
Takahashi H, Ogawa Y, Yoshihara S, Asahina R, Kinoshita M, Kitano T, Kitsuki M, Tatsumi K, Okuda M, Tatsumi K, Wanaka A, Hirai H, Stern PL and Tsuboi A
The Journal of Neuroscience 36:8210-8227 (2016)

プレスリリース(2016.8.4)


においの検出感度と識別に関する神経メカニズムに迫る

【研究の背景】
 嗅細胞で受容されたにおい情報は、まず一次中枢である嗅球で処理され、そののち嗅皮質へと伝えられて識別されます。嗅球の神経回路では、抑制性の介在ニューロン(傍糸球細胞・顆粒細胞)が、興奮性の投射ニューロン(外房飾細胞・僧帽細胞)の神経活動を調節することによって、においの情報処理が行われています(図1)。また、嗅球介在ニューロンの大多数をしめる顆粒細胞には、樹状突起の形態の異なる複数種類のサブタイプが存在することが知られています。しかしながら、においの情報を処理する際に、特定の顆粒細胞のサブタイプがどのような役割を果たしているのかについては、全く明らかにされていませんでした。

【本研究の成果】
 私共はこれまでに、5T4という一回膜貫通型の糖蛋白質が顆粒細胞の中の特定のサブタイプ(以下、5T4顆粒細胞)で、におい刺激に応じて産生されて、樹状突起の枝分かれを制御していることを見出しました。そこで本研究では、顆粒細胞の樹状突起の枝分かれが減少している5T4欠損マウスから嗅球スライスを作製し、5T4顆粒細胞の樹状突起を電気刺激することにより、投射ニューロンへの抑制性の入力がどのように変化するのかを調べました。興味深いことに、野生型と比較して5T4欠損マウスでは、投射ニューロンの中の外房飾細胞のみにおいて、5T4顆粒細胞からのGABAA受容体を介した抑制性の入力が顕著に減少していました。また、顆粒細胞は投射ニューロンと、樹状突起を介した双方向性のシナプスを形成することが知られています。そこで、投射ニューロンから5T4顆粒細胞への興奮性の入力についても検討したところ、5T4欠損マウスでは5T4顆粒細胞への興奮性の入力も顕著に減少していました。これらの結果から、5T4欠損マウスでは、5T4顆粒細胞の樹状突起の枝分かれが減少して、外房飾細胞との樹状突起を介した接続も減少していることが明らかになりました(図2)。
 次に、におい物質の濃度を変えてマウスに提示して、探索行動をするにおいの検出感度を調べたところ、5T4欠損マウスでは野生型と比較して、約100倍低下していることが明らかになりました(図2)。さらに、においの識別能について、2つのにおい分子AとBに対する学習行動の実験を行いました。2つのにおいが単独で存在する場合には、野生型と5T4欠損マウスは共に、それぞれを識別できました。しかしながら、2つのにおいが共存する場合には、野生型マウスはにおい分子AとBを識別することができましたが、5T4欠損マウスはできませんでした。これらの結果から、他のにおいが高い濃度で存在する場合には、5T4欠損マウスは目的のにおいを嗅ぎ分ける能力に異常が生じていると考えられます。
 以上の結果により、5T4顆粒細胞という嗅球介在ニューロンのサブタイプが、においの検出と識別に必須の役割を果たしていることが明らかになりました。今後、5T4顆粒細胞以外のサブタイプについても同様な解析を行うことにより、嗅球介在ニューロンを介したにおい情報処理のメカニズムがさらに明らかになると考えています。また本研究から、遺伝的な嗅覚障害、並びに、加齢や神経疾患に伴う嗅覚機能の低下に、5T4顆粒細胞が関与している可能性が示唆されますので、“人為的に5T4顆粒細胞を活性化することにより、低下した嗅覚機能を回復させる”といった新たな治療法の開発にもつながると期待されます。



 

投稿日:2016年08月05日